■ 桃源壺の特徴
益子焼×骨壺。
伝統工芸品の美しさに機能性を加味
益子焼の窯元・壺中庵(こっちゅうあん)が手がける「桃源壺(とうげんこ)」とは、伝統工芸品としての品格、美術陶器としての美しさを兼ね備え、かつ、透水性のある用土を用いて機能性を高めた創作骨壺です。
壺中庵主人であり陶芸家の河原健雄のライフワークの一つとしておよそ10年前に着想。湿気により骨壺内に水が溜まってしまう従来タイプのデメリットを改善するため、透水性を念頭に土づくりから創作しました。
同時に、陶芸作品としての美や質感を表現するため、高火度での焼成を可能にした穴窯による「焼き」にもこだわり、現在、焼締めや窯変など多様なバリエーションで展開しています。
変わる現代人の死生観。
充実した人生を送るために、いま、自身の終末期と向き合う
「死生観」とは、死を通した生の見方のことです。
昨今、現代人の死に対する考え方は大きく変わり、かつては突然やって来るものでしたが、現代では備えるものになりました。
例えば、終末期に備えて自身の希望を書き留めておく「エンディングノート」や、人生の終わりのための活動を意味する「終活」といったキーワードをよく耳にします。これまでタブーとされてきた死を真正面からとらえ、死に向き合うことの重要性に多くの人が気づき始めました。
もはや死について考えることは不吉なことではありません。
元気なうちに、夫婦ふたりで用意する
創作骨壺の愉しみ方
以上のように考えれば、かつて「不吉な物」として敬遠され、遺骨を納める容器として機能してきた骨壺もまた、新たな見方で捉えることができます。
花活けや水差しなど茶陶の流れを汲む創作骨壺「桃源壺」は、やきものとしての「品格」を有しています。そのため、普段は花を飾ったり、貴重品を入れたり、置物としても使えるなど「しつらえる」愉しみも。夫婦それぞれがお気に入りの壺を用意し、例えば、家族に対するメッセージを入れる伝言壺としても使えます。
日々の暮らしの中で愛着を持って使い、飾って愉しめる点が従来の骨壺と大きく違うところ。毎日眺めても飽きない美術陶器に、もはやマイナスのイメージはありません。
■ 桃源壺の魅力
01 骨壺内に水が溜まらない
一般的な磁器製の骨壺は、墓地に納骨後しばらくすると、外気との温度差で骨壺内が結露し、やがて水が溜まってしまうことがあります。こうしたデメリットを回避するため土づくりから見直し、同時に、造形的に工夫することで透水性のある骨壺「桃源壺」が誕生しました。
透水性を高めるための工夫は、粘土に混ぜた適量の「もみ殻の灰」です。珪石(珪酸質の岩石)は1300度で焼いても溶けないため、焼成後も粒状に残り、結果として水を通します。例えば、桃源壺に水を満たし、一晩おくと、明くる日には空っぽになっているほど。地肌に無数に空いた気孔(微小な空洞)が透水性の秘密です。
ただし、美術陶器としての価値を損なわないために、透水性のある粘土は最小限に止めました。底に鉛筆ほどの太さの穴を開け、部分的に透水性の高い粘度を用いています。
02 やきものを「育てる」楽しみ
やきものを「つくる」のは陶芸家の仕事ですが、「育てる」のは使い手の役割とされています。先に触れた通り、美術陶器としての美しさを兼ね備えた「桃源壺」は、普段は花入れや貴重品入れのほか、置物としても楽しむことも。末永く愛用することで古色や風合いが生まれるなど、やきものを育てる楽しみがあります。
03 オーダーメイドも自由自在
焼締めや窯変など、本格陶器と変わらないラインナップを取りそろえた「桃源壺」は、その形やデザイン、モチーフなど、さまざまなオーダーメイドにも応えられます。
例えば、代々伝わる意匠をモチーフにしたり、好きな草花をデザインしたり……。外見上のデザインのみならず形そのものからオリジナルに徹し、例えば、生まれ育ったふるさとの田舎家を模した形にするなどのオーダーも可能です。
ちなみに、東日本と西日本では骨壺の大きさに違いがありますが、それらの様式にも対応できます。
04 自らの手で創作もできる
益子焼の窯元・壺中庵の工房に出向き、自らの手で、オリジナルの創作骨壺をつくることもできます。もちろん、壺中庵主人・河原健雄がマンツーマンでサポート。土をこね、ロクロを回し、穴窯での焼きにもこだわった本格的なやきものづくりが体験できます。
所要日数はおよそ3日間。ご夫婦そろって旅行気分で益子の地を訪れてもよし、ご都合に合わせて週末ごとに訪れても構いません。
「究極」ともいえる完全オリジナルの骨壺は、自身の想いを表現するにはぴったり。ゼロから始める創作骨壺づくりは、自身の死を見つめ、死をポジティブに考えるきっかけにもなります。
05 包み方も美しく、美術品と同等に
桃源壺は、その包み方も本物志向です。古くから受け継がれる作法に則り、一作品ごとに桐箱に入れ、紫の風呂敷で格調高く包みました。茶道具や骨董品など美術工芸品と同じ包み方です。
仏教世界において紫は最も格の高い色とされています。この紫の風呂敷は保存・保管のみならず、納骨時にご遺族が持ち歩く際の「骨覆い」としても機能します。
また、桃源壺の2つの「耳」に掛け渡すひもは、茶壺のひも飾りにも使われる正絹製。胴と蓋を固定するためのものですが、本来の「結び」にこだわることで、美術陶器としての美しさをより高めました。男性には紫色、女性には朱色など色のバリエーションもご用意しています。
■ 陶芸家のメッセージ
【陶芸家の信念】
「一に窯、二に土、三に造り」
【創作のきっかけ】
19歳で益子の地を踏み、24歳で築窯。以来、益子焼の歴史・伝統を継承しつつ、時代の変化と向き合いながら先鋭的な陶芸作品をつくり続けてきました。
「桃源壺」を着想したきっかけは、両親を見送った経験からでした。故人の遺骨を納める白い磁器製の骨壺は、容器としては十分かもしれませんが、やきものに宿る美や品格を感じません。
やきものづくりに携わる身としては心苦しく、胸に痛みを覚えました。「陶芸の世界に生きる者としてできることはいないか?」と考えたときに、美や品格を有した新たな骨壺の創作を思い立ったのです。
「桃源壺」の名は、俗界を離れた他界・仙境を意味する「桃源郷」の世界観に倣い、理想郷の意味を込めて命名しました。
【桃源壺に託す想い】
かの一休禅師は、「年の初めに死を思え」と説きました。日常的に死を意識することで今日1日を悔いなく過ごすことができ、また、「今」という時間・空間を有意義に過ごすことができるからと捉えています。
「桃源壺」の最大の価値はそこにあります。元気な人にとっては「分身」であり、いずれ来たる死を意識しつつ、第二の人生を謳歌するための拠り所であると考えています。「桃源壺」によって自身の死を見つめ、死をポジティブに考えるための糸口なり、また、意味深い人生の最終章を迎えるきっかけになれば幸甚です。
ちなみに、骨壺は1人に1つ。夫婦それぞれの好みで気に入ったものを選んでほしいと思っています。そのために多様なバリエーションを揃えました。穴窯による窯変の美を身近に感じてください。
【陶歴 Kenyu Kawahara】
1951年 栃木県茂木町に生まれる
1969年 陶芸家・大塚貞夫氏に師事
1974年 益子町新福寺に築窯
1977年 伝統工芸新作展入選
1983年 朝日陶芸展入選
1984年 朝日陶芸展入選
1985年 日本伝統工芸展入選
1986年 陶壁作品「東海の宙(おおぞら)」制作(三菱原子燃料株式会社・茨城県東海村)
1989年 陶壁作品「巨大なる松の群像」制作(丸福興業株式会社・千葉県松戸市)
1990年 日本伝統工芸展入選
1992年 陶壁作品「芳賀讃歌」制作(栃木県芳賀地区農業共済組合)
1993年 河原健雄デザイン陶房設立
2004年 骨壺の制作を想起。陶芸家としてのライフワークの一つとする
2012年 創作骨壺「桃源壺」を個展にて発表
2014年 陶房を「壺中庵」と命名
2016年 ホームページ「美の骨壺」を立ち上げる